2024.5.24

熟練技術を伝承し、付加価値を高める3Dスキャナーの活用

創業以来、当社の製造・修理を支えてきたのは、さまざまな職人の技術でした。
近年、デジタル化が急速に進む中、当社でも最新機器の導入により、DXの推進をはかっています。今回は、3Dスキャナーの活用について紹介します。

3Dスキャナーとは

物体に光を照射し、その反射光をとらえて三次元測定し、点群データとして取り込みます。機器により異なりますが、対象物にターゲットを取り付けることで、対象物を動かしながら三次元で計測することが可能になります。

若手社員が提案した3Dスキャナーの導入

当社は、図面がない製品や部品の修理・新規製作の依頼を多くいただきますが、3Dスキャナーを導入する前は、ノギスやメジャーなどを使用し、手作業で寸法測定を行っていました。熟練した技術でお客様のニーズに対応していましたが、その技術に付加価値をつけ、スピーディかつ正確にデータを収集できるようにすることを目的に、部門の課題や顧客ニーズの改善活動をしていた社内プロジェクトで3Dスキャナーの活用を提案。20189月に導入しました。移動が不可能な大きさの修理品や複雑な形状の部品の増加、持ち出す時間の制約という背景もありました。

選定にあたっては3社からデモを受け、下記の主な理由でニーズに合ったクレアフォーム社に決定しました。

・机上だけでなく、車一台分くらいの空間が認識できる

・手軽に持ち運びができてさまざまな場所で計測できる

・対象物を自由に動かしながら計測できる

・ソリッドワークス(CADソフト)へのデータ移行の利便性

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テスト計測でサンプルを積み重ね、より的確な活用に

3Dスキャナーの操作自体は比較的簡単ですが、データ処理などに専門的な知識が必要となります。
また、スキャンする際の環境でデータが大きく影響されるため、導入して2年ほどは一人が専門的に運用し、さまざまな環境下でのテストを行いました。
一年を通して季節による変化や、朝から夜までの時間的な変化、屋内か屋外かなど場所による影響などを比較検証。たとえば、屋外では短時間、日光を浴びただけでエラーになってしまったり、屋内ではブラインドから漏れる光の加減、照明の位置などが影響するため、ケースごとに工夫をしました。
こうして、計測のための条件が絞れるようになり、手順をマニュアル化し、3Dスキャナー活用の下準備を整えました。また、実際の完成品をスキャンしたデータと、3Dソフトで製作したデータを照らし合わせた検証も実施しました。

図面のない大型器材、複雑な形状の部品などの活用事例

◆事例1
航空機整備の際に、主翼を取り外して置いておく台の製作依頼がありました。10メートルほどある主翼のデータが必要ですが、メーカーからは提供してもらえませんでした。それまで同様のご依頼があった際は、機体を新規で購入する際に一式で購入されている整備器材を計測して製作していました。翼の計測に与えられた時間は2日半。初日は環境をうまく把握できませんでしたが、テスト計測の事例から、これならいけるだろうという手順を想定し、ターゲットの貼り方や向きなどを再考して2日目には成功しました。
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◆事例2
取引先で製作した2メートルほどの大きさの衛星を載せる台車のリングを、その場所でスキャンし、修正箇所がないか確認。修正箇所を速やかに手直ししてから、当社の工場へ運び、組み立てなどの次工程へ進めることで、工期の短縮、移動コストの削減につながりました。

◆事例3
樹脂をつくるプラント内の押し出し機のスクリューについて「新品をつくりたいが図面はない」というお客様のご要望から、スクリューを工場に持ち帰りスキャンし、図面化しました。

◆事例4
サポートアームの「左右対称の部品の片方が壊れてしまった」とお客様から製作依頼をいただき、壊れていない部品をスキャンし、データを反転して設計・製作しました。
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◆事例5
航空機の燃料タンクの漏れをチェックする際に使用する器材の製作依頼があり、お客様から見本を貸与いただき3Dスキャナーを使用。測定工具では測れないR部をスキャンし、現品とほぼ同形状になるようにしました。

 

◆事例6
ヘリコプターのブレードを保持する器材の試験をする際にブレードを押さえるため、ブレードの形状を模した治具の製作をするにあたり、ブレードを3Dスキャンしました。
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修理の領域でのリバースエンジニアリングでの活用

リバースエンジニアリングとは、すでに存在するパーツからデータ取りを行い、新しい製品を作ることを言います。当社では修理品などの摩耗・破損したパーツでも同様に3Dスキャナーを用いており、角度測定など手計測では測定不可なものに主に使用しています。
たとえば、建設機械のアーム部の穴と穴の距離(心間距離)や、大型特殊車両の不具合(事故により部品が落下して変形したため装着できず)の出た部品の角度測定などです。また、鋳物で製作されているベアリングケースやデフケースは、異形の物で基準値が取りにくく、通常の測定工具ではデータ取りが困難な場合に3Dスキャナーが活躍します。

検証、教育ツールとしての活用

 お客様からご依頼いただく案件だけでなく、社内でも活用をしています。

たとえば、技術課での荷重試験。部品に10トンの負荷をかけて3Dスキャナーで計測。ねじれや歪みなど技術課で予測した解析データとの違いを確認し、数値に差異がある場合はその原因を解明します。
また、溶接作業では変形や縮みが発生するため、経験値での作業になりがちですが、経験値でなく作業が標準化できるよう、3Dスキャナーの活用を試みています。溶接前後に3Dスキャナーで計測し、数値化したものを設計や現場で共有しました。熱のひずみは溶接作業の手順によっても変わるため、歪みの出にくい溶接方法については、スキャナーで歪み具合を測定し、経験の少ない社員も数値で理解できるようにしています。
 さらに、取引先からの完成品の受け入れ検査時や、公式の検証データが必要とされていない器材についても、設計データと完成品のスキャンデータが合致するかの確認をするために使用しています。

お客様とのより円滑なコミュニケーションの一助にも

 3Dスキャナーで計測し、ソフトでスキャンデータを処理することで、お客様に画として歪みなどを把握していただけます。視覚的な情報にすることで、専門的な知識がないお客様にも、簡単に正しく理解していただくことができます。
依頼品が大型化し、精度や公差の要求が高く求められるリバースエンジニアリングにおいて、レスポンスよく対応していくために3Dスキャナーは必要なツールです。今春には、さらなるスピードアップと正確性の向上のため、3DCADに取り込むソフトを新しく導入しました。私たちは経験値を増やしてさまざまな視点でアイデアを出し、さらに活用方法を練ってお客様の期待にこたえていきたいと考えています。