プロジェクト事例

安全対策を施し、使いやすさを重視した13メートルの作業台

作成者: 堀口エンジニアリング編集部|2023.03.24

お客様の課題

お客様の製鉄所では、構内外への荷物を大型の長さ10mを超えるトレーラーで運搬しています。完成した鋼板は、「コイル材」と呼ばれロール状に丸められます。そのコイル材は、製造工場から物流倉庫へトレーラーで運ばれ、クレーンを使用してトレーラーに載せた後、作業員が作業台に乗って鉄鋼用ロールを固定します。

その際に使用される作業台は動かないように据付されていて、トレーラーの運転手の技量によって停車位置がずれることがありました。そのため、作業台とトレーラーに隙間ができ、作業員が足を踏み外すという事故が発生。安全対策として、トレーラーの停車位置にピタリと合わせることができる作業台が必要となりました。

お客さまから提示された仕様は、次の3点でした。
・人力で操作する(電気や油圧を使用しないため)
・作業台とトレーラーに隙間が無く、踏み外す危険がない
・長さ13mの作業台が一体物では運搬できないため、分割で製作し、現地で組み立てられること



そして、作業台製作にあたって解決すべき点は、大きく二つありました。
・人力で操作するための構造をどのようにするか
・地盤が平らではない設置場所にどう対応するか

解決のプロセス

Ⅰ 基本設計の提案
Ⅱ 走行レーンの制作

Ⅰ 基本設計の提案

 1. 固定された作業台+水平移動フロア構造の検討
第1案として、作業台を可動させるのではなく、作業台に水平方向に移動するフロアを取り付け、減速機やチェーン、スプロケットを介して、その平面を可動させる構造を検討しました。
しかし、トレーラーが斜めに停車した際に、作業台との隙間ができてしまうため、別の方法の検討が必要となりました。

2. 可動式作業台の検討
第2案として、作業台を可動させる構造を検討しました。
作業台を可動させる場合、平坦な地盤であることが重要なため作業台車輪用の走行レーンの製作を検討。
そのため、作業台の設置場所の基礎工事をお客さまに提案。許可をいただき、基礎工事を請け負う協力会社を手配しました。

第2案の「作業台を可動させる構造」においての懸念点は二つ。
1 人力で動かせるように減速機を使用した場合、ハンドルを回す回数が増えること。また、回す回数を減らせば、ハンドル操作力が増えてしまうこと
2 斜めに停車したトレーラーに対し、どのように作業台を合わせるか

それらの対策として、
1 少ない操作力で13mの作業台を動かす場合、ハンドルを多く回す必要があること。またその進むスピードが遅いことを、お客様さまに理解していただく。設計時にハンドル操作力が何キロ必要かを割り出し、それに合わせた減速機、スプロケットを選定する。
2 作業台自体を斜め旋回させる。
減速機から駆動車輪に伸びる左右のドライブシャフトにクラッチをそれぞれ設け、駆動力をクラッチ操作によりコントロールすることで、旋回可能とさせる構造を提案。

本提案が承認され、次の基礎工事、設計製作のステップに進みました。

 

Ⅱ 走行レーンの製作

1. 基礎工事
お客さまのご要望により、作業台が走行する箇所に長方形の鉄板を敷き、車輪が脱線しないように、鉄板4辺にアングルを溶接しました
この鉄板は、車輪止め及びガイドの役目を果たし、作業台が意図しない動きをした場合の抑制となります。

強固な地盤のハツリ作業に苦戦しながら、水平部分の確保(レベル出し)を行い、鉄板の埋め込み作業を完成しました。

2. 社内組立による検証
ハンドル回転操作力を割り出すことは、計算上だけでは上手くいかないことを、さまざまな製作実績から熟知しています。対策として、減速機の選定とスプロケット、またハンドルの大きさも含め、変更幅を持たせました。
完成後の立ち合い検査では、イメージ通りに前進や後退、旋回をさせることができました。

3. 現地組立
作業台を設置する工場は、クレーンやユニックなどの使用ができなかったため、油圧ジャッキを使用し、3分割した作業台を組み立てました。
しかし、動かしてみると、基礎工事後のわずかなレベル出しのズレと作業台の溶接ひずみから、8輪ある車輪の数カ所がスリップ。前進や後退の操作でも、少し旋回してしまう症状が出てしまいました。
それらは、想定内だったため、用意していたスペーサーを車輪台座とフレームの間に入れることで車輪と地面の接地力を増やし、症状は解消しました。
また、計算上のハンドル操作力と回転数を、現場で操作してみたところ、思いのほか操作力が軽く、ハンドル回転数も苦にならない範囲でした。
「操作力が多少重くても、回転数を減らしたい」というお客さまの追加要望もあり、ギヤ比及び、ハンドルを大径のものに変更。回転数を少なくしつつ、操作力低減を考慮したセッティングを行い納品いたしました。

 

まとめ

お客さまに安全に使用いただけるように製作するのは当然のことですが、安全対策の考え方はお客さまごとに違うため、形にするのは非常に難しい作業です。
また、新規のオリジナル品を製作する上では、検証をじっくり行う日程や費用をいただくことが難しいことが多くあります。
そのため、当社では長年培った技術力を元に、現地での完成品のセッティングにおいて、あらゆる状況の想定と準備を行っています。本件も現地の周辺状況などを踏まえて設備や機材を選定し、お客さまの課題解決に繋げることができました。