日本の海と空を守る海上自衛隊
皆さんは海上自衛隊が運用する「US-2」という航空機をご存じでしょうか?
周囲を海に囲まれた日本において、陸地から遥か彼方の洋上を航行中の船舶や日本各地の離島。
そこで発生した急患を船やヘリコプターでは時間がかかるため、付近の洋上に着水して日本国内の最寄りの空港、飛行場に搬送する重要な役割を担うのが、海上自衛隊岩国航空基地第71航空隊に配備されている水陸両用救難飛行艇US-2です。
このUS-2の性能を最大限に引き出すためには、搭乗員の方々による安全運航、そして整備員の方々による日々の整備が不可欠です。
特に、航空機のエンジン整備には、その技術力と安全性が求められる作業であり、整備員の方々がその能力を発揮するのを支えるための専用の整備用器材が必要になります。
今回、当社が防衛省様の依頼を受け製作した「US-2用エンジン整備用作業台」は、まさにその要求に応えるべく、高度な技術とノウハウが凝縮された製品です。
緊急指令:安全への追求
2024年2月、海上自衛隊一般競争入札の公告を確認していた営業3グループの村山は、1件の公告に目をとめた!
それは、日本周辺海域の救難活動の最後の砦であるUS-2のエンジン整備に必要な整備用作業台の入札公告だった。
US-2は着水能力持つ飛行艇というその特殊性から、海上自衛隊の航空基地だけではなく、全国の自衛隊基地や空港、時には海外の空港を拠点として救助活動を行うのだ。
そのため、エンジン整備用作業台を分解し、航空機内に搭載して全国の自衛隊基地や空港に整備員とともに向かい、整備員と整備作業台を降ろして救助者が待つ洋上で海上に着水し救助者を収容して基地や空港に戻ってくる。
その後救急隊に救助者を引き渡し任務が完了する。
そこからが整備員の出番だ。海水を含んだ空気を思いっきり吸い込んだエンジンは、整備員による整備を待っている。
そのためUS-2には容易に分解組立ができるエンジン用整備作業台が必要だった。
エンジンは機体上部にあり、その高さは地上から4メートルを超えるため、整備作業は危険を伴い安全に配慮する必要がある。
また、洋上に着水し任務を終えたUS-2は、塩害によりエンジンが腐食しやすく、迅速な整備が必要不可欠だった。
「この公告はこれまでの整備用作業台に比べ、安全を追求する要求事項が数多くあり難題だが、官民問わず航空機整備用器材で長年の実績のある堀口の技術力をもって臨めば、きっとこの作業台を整備員に届けられる!」 海上自衛隊OBで哨戒機搭乗員でもあった営業3グループの村山は当時を振り返る。
技術者たちの苦悩:繰り返される試行錯誤
村山は万全の態勢で入札に臨み、「US-2用エンジン整備用作業台」の製作を受注した。
それと同時にこれが苦難のスタートだった。US-2の複雑な機体構造を技術グループに伝え、防衛省の要求を設計図に反映させるべく、細かい仕様会議を重ねた。
しかし、その道のりは、想像を絶する困難の連続だった。
「4メートルを超える高さで整備員の安全性を確保し、かつ、US-2の機体に干渉せず、分解、組み立てができる構造はどうすれば実現できるのか…。それに加え、作業台の中央にUS-2のプロペラブレードを通さなければいけない特殊な構造が要求されている…。」
この課題をクリアすべく昼夜を問わず、堀口エンジニアリング社員が一丸となって課題に取り組んだ。
やがて設計図が完成し、いざ製作に入ると、製造チームを率いる溶接グループ長の藤﨑は、長年の溶接の経験と研ぎ澄まされた勘を頼りに、試作品製作に挑んでいた。
しかし、試作品が完成し、いざエンジン整備作業台をUS-2の機体にセットすると、設計図では見えなかった改良点が続々と怒涛のように押し寄せ、藤﨑を苦しめた。
「こんな巨大なアルミ構造物を、強度を維持しつつ精度を高く仕上げるのは至難の業だ。だが、絶対に不可能ではない!」
藤﨑はおのれの技術を信じ、修正に修正を重ねた。
官民共同の結果:US-2の整備員の声をかたちに
試作品1回目のフィットチェックで、整備員からさらなる改善要望が堀口エンジニアリングへ投げかけられた。
その改善要望をひとつひとつクリアして改良を重ね、さらに安全でさらに使いやすいエンジン整備用作業台へと近づいた。
そして、2回目のフィットチェックの日を迎える。整備員達の期待に応えるエンジン整備用作業台に仕上がっているのか、製作担当者一同が祈る思いでフィットチェックに臨んだ。
その結果、US-2整備員はもとより、この作業台の要求元である海上幕僚監部の隊員もその完成度の高さに誰もが言葉を失った。
整備員達のもとへ届ける
無事にフィットチェックを終え、完成検査をクリアし、海上自衛隊整備用器材の山吹色を身にまとった4台のエンジン整備用作業台が岩国航空基地へ届けられた。
分解した状態で納品されたエンジン整備用作業台を、第31整備補給隊第311機側整備隊員の手で1台1台組み立てた。
完成した作業台を前に、隊員と村山、藤﨑を始めとする担当者皆で喜びを分かち合った。
US-2用エンジン整備用作業台仕様要求
全 長 最大4,300㎜
全 幅 最大3,500㎜
全 高 最大4,300㎜
質 量 最大750㎏以下
作業フロア高さ 上段:4,300㎜
中段:3,780㎜
下段:3,480㎜
■ 最大の特徴 ■
1.可搬式:作業床をはじめ、分解してUS-2機内に搭載できます。
2.軽量化:総アルミ構造で軽量。そのためクレーン、フォークリフトなどの機材を使わず組立が可能です。
3.省人化:本体重量は750kgにもかかわらず、高性能キャスターにより一人で容易に移動可能であるため、
省人化を実現(付属品でトーバーを有しています)。
4.安全性:高所作業のため、作業床には安全帯用の固定環を複数装備しています。
手摺は機体との接触を避けるため可倒式となっています。
あとがき
我々堀口エンジニアリング株式会社は、防衛省の製品製造を通じて、日本の防衛に微力ながら寄与するとともに、ひいては日本国民の命を守るという責任の一端をこれからも担っていきます。